好血圧だより

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もう間に合わない夏休みの読書感想文  阿川さんち父娘編 その1

色んな意味でスゴイ父娘

世に戦争文学と呼ばれる書物はたくさんありますが、わたしが読んだのはごくわずかにすぎません。そのうち特に印象強かったのが阿川弘之著『暗い波濤』です。

阿川弘之さんは太平洋戦争中、海軍の予備学生士官でした。戦後、同期生はじめ多くの関係者に体験を取材して著したのが『暗い波濤』です。これは小説のかたちをとっていますが、登場人物たちの過酷で凄惨なエピソードの数々は実在した人びとの実経験を借りていて、ノンフィクション小説に近いといってよい作品なのです。

これを読み終えたときの心境を、正確に表現する能力がわたしにはありません。「やはり戦争は絶対悪だ」とか「国家権力って信用できん」とか「人間の本質はエゴイズムだ」なんてありきたりな言葉ではとても言い表せず、平和な時代に生きていることに、ひたすら感謝したいのであります。

全部で1200ページ以上ありますが、戦争について真剣に考えざるを得ない今の時代、ぜひすべての日本人に読んでほしいです。

 

阿川弘之さんは志賀直哉のお弟子さんだけあって、その文体は簡潔でとても気品があります。あらすじとかの内容はもちろん、文章そのものが極上のご馳走。ユーモアもたっぷりで、読んでいて心地よい文体です。

終生、旧仮名遣いで原稿を書かれたそうで、一部のエッセイは「歴史的仮名遣ひ」のまま出版されております。写真の『断然欠席』もそうでして、最初は面喰いましたが、慣れてくると、こっちのほうが自然な日本語とちゃうか、と思えるようになったもんです。

ご存知でしょうが、阿川さんはあの『聞く力』の阿川佐和子さんの御父上でもあります。今では娘さんのほうがはるかに有名で、「小説の神様の最後の直弟子」を読む人もすっかり少なくなってしまったようです。それがワシは悔しい。なので、畏れ多くもかような駄文を草し、天下に阿川お父さん文学の再評価を乞い願う次第であります。

で、阿川家における凄まじい父娘関係への感想は、また次回。

お大痔に。